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zoom RSS 田口ランディ著『被爆のマリア』について

<<   作成日時 : 2006/06/25 11:06   >>

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 今日の「朝日新聞」「赤旗」の読書欄に、田口ランディ著『被爆のマリア』の書評が掲載された。「朝日新聞」の評者は小池昌代(詩人)、「赤旗」は千頭剛(文芸評論家)である。
 もうすぐ被爆61年が来るが、いまだに被爆者は苦しみ続け、核兵器は存在し続ける。いま、原爆を語り続けることの重要性は失われてはいないどころか、人類と共存できない核兵器の完全廃絶を主張することはますます必要だろう。
 過去には『黒い雨』や『はだしのゲン』など、小説やマンガに描かれた。が、いまでは被爆体験をもつ林京子が、原爆をテーマにした小説を書き続けているだである。それ以外で原爆を中心にした小説は今日ではあまりお目にかかれない。一昨年、こうの史代が原爆をテーマにしたマンガ『夕凪の街 桜の国』を発表し注目されたが、それから久しく原爆を中心に書いた作品は林京子以外注目されなかった。

 それだけに田口ランディの原爆をテーマにした『被爆のマリア』に注目した。本日、この小説の書評が偶然にも二紙同時に掲載されたことは、それだけ注目されていることが伺われ、それはそれでいいことだと感じる。ただ、二人の書評にしっくりこないところがある。
 単行本『被爆のマリア』には4作品が収録されており、いずれも原爆をテーマにし、それぞれ独立した作品である。しかし、一つ一つの作品を切り離して読んではいけないと、私は思う。4ヶ月連続で『文学界』に発表されたことからも、田口ランディが並々ならぬ思いを込めていることを見るべきだと思う。

 小池昌代は、「田口ランディはこの本の中で、一体何をしたのだろうか」と問いかけている。ここには4つの作品をひとつのものとして問う視点があるように思う。しかし、「イワガミ」を中心にしているために、「原爆が、そうした大きな神話的流れのなかに位置づけられことで、『私』にも読者にも、初めて原爆がリアルに見えてきたのである」という。この後に続けられた「連綿と続くその流れに、わたしもまた組み込まれている者だ」とあるから、簡単に切り離して評するわけにはいかないが、著者が現代のリアルな社会をも描くことによって原爆を問おうとする視点がぼかされた書評のように感じた。

 千頭剛は、「加害国だったアメリカに危険な従属をして、その戦争に協力しているのは今。その間、原爆体験は風化の一途を辿ってきた。そうした中で1959年生まれの田口ランディの『被爆のマリア』が現われた」と、現代との結びつきからとらえようとしている。
 そして、4作品それぞれについて評している。それぞれの作品に対する評は的を得た指摘である。「被爆のマリア」に対する「原爆が父親のドメスティックバイオレンスに矮小化しているのは頂けない」との指摘にも、そうだろうと思う。だが、それぞれの作品を別々に評するだけで、この単行本を評することになるのだろうか。
 千頭剛は最後に、「被爆体験者の思いは容易に戦争を知らない世代に届かないように、作者の意図も読者には伝わりにくい。小説は、個別の一般化・特殊の普遍化という仕事だけに難しいという思いを深くさせられる」と結んでいる。
 たしかに「作者の意図も読者には伝わりにくい」と思う。しかし、この4作品は、「被爆体験者の思い」を届けるだけの作品ではなく、現代の歪みを原爆投下後の政府や私たちの態度からもとらえようと視点に立っている。そこを読み取れば、違った視野が見えてくるのではなかろうか。

 私は、「イワガミ」に書かれた被爆地図の描写から、4作品を結びつけて読む必要があると感じる。
 「その地図は資料館のもので、爆心地を中心に同心円が描かれていた。この地図は無情だと思う。松田さんは爆心地から1・5キロで被爆した。だが、その距離が意味するものは何だろうか。そのようにして被爆も計測され、爆心地に近いほど悲惨さは増す。そうやって被爆は平面の中に位置づけられ、同心円のなかに閉じ込められてきたのだ」

 ここには、何でも線引きをし、別々のものとして見ようとする社会すべてへの批判が込められていると思う。戦争への責任を曖昧にし、被爆者への対応を曖昧にしてきた政府。この曖昧な対応が、今日も社会の歪みとして現われている。その反対である「計測」もまた社会の歪みとして現われている。
 都合の悪いことは曖昧にし、都合がよい場合には「計測」する。どちらも、支配者に都合のよい社会を維持するための正反対の態度なのである。

 著者は、ではどうするのか、を言ってはいない。しかし、原爆に対して曖昧であったり、計測したりする両極端でないところの問題意識を示してはいる。そこに私は、この単行本に注目するし、次作を期待したいと思っている。

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コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
田口ランディさんが、そのような本を書いていたとは知りませんでした。田口さんがベトナム旅行の本などを書いていたことしか知らなかったので、旅好きの人というイメージしかありませんでした。二紙に書評を書かれてるのはすごいですね、読んでみたくなりました。
めい
2006/06/26 10:21
実は私も初めて田口ランディを読んだのです。原爆をテーマにした作品を書かなければ、読んでいなかったかも?
未来
2006/06/26 20:19
未来さんの原爆被害者、加害者への思いは深いものがあるのだなぁ、と改めて感じました。原爆許すまじ。再び核兵器をめぐる戦争の危機が高まっています。
Takahashi
2006/07/13 00:02

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